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ちゅら星(35)
27. 三ツ星旅行
「何さっ。」と言ってユニヴァは渦巻貝をテーブルに置いた。
僕らはいっせいにソファアにどっぷりっと持たれた。
突然ユニヴァが仔猫のように飛び起きて窓を見つめた。
僕とクーさんも窓を見た。
白い雲と青空しか見えないはずの景色が一変して、いつのまにか雑草の生えた小道がゆるい傾斜で丘の上へ続いている景色になっているのだ。
「何これっ?」ユニヴァがつぶやいた。
僕はさほど驚きもしなかった。
と言うのもユニヴァの家はミラクル構造になっているので、窓の景色も手の込んだ仕掛けになっていると思ったからだ。
「こ~んな景色はあたしのリストにはないもの・・・。」
ユニヴァはソファアからポトンと降りると窓へ近づいて行った。
それから鼻先を突き出してクンクンと匂いをかいでいる。
僕とクーさんもソファアを立って、窓辺に近づいた。
「草の香り・・・。」ユニヴァが窓に手を伸ばすと、ガラス窓を突き抜けた。
「あれっ、窓じゃない。向こうに通じてるよ。」
「行ってみるでしょ?」とユニヴァが僕らを振り返った。
僕とクーさんは無言でうなずいた。
ユニヴァが一歩踏み出そうと、大きく息を吸い込んだ時、突然僕がストップをかけた。
「もし、あちら側に入った後に戻る方法がなかったとしたら?」
「あっちの世界でなんとか暮らしていくしかないでしょ!」と言うのがユニヴァの回答だ。
そしてユニヴァが窓の外?の世界に入り、ニコニコ顔で手を振ってまたユニヴァの部屋へ戻ってきた。
それからユニヴァが用意した水筒とビスケットをキッシュを入れて来た空の袋に入れると、僕らは窓の世界へ踏み出した。
どこにでもあるのどかな丘の道だ。
どこまでも短い雑草で覆われた土地が芝生のような緩やかなカーブを作っていて、細い涼しげな木がところどころに見えるだけだ。
数歩歩きだしたところでユニヴァが待ったをかけて、走ってまた部屋に戻って行った。
こちら側からユニヴァの部屋を見ると、崩れた岩肌の壁に違和感のある風景が四角くぽっかりと空いているのだ。
戻ってきたユニヴァは右手に握った渦巻貝を僕らに振って見せた。
「だって、いつLume星から連絡があるかわからないでしょう?」
そう言ってユニヴァは僕がぶら下げていた水筒とビスケットの袋に渦巻貝を押し込んだ。
とにかく僕らは道なりに緩やかな坂道を登って行った。
10分もすると丘の頂上の向こう側が少しずつ見えてきた。
僕らは登り続ける。
キラキラした小川がどこまでもうねうねと続いていて、遠くにかすむ海へと続いているのが見える。両側の平たんな土地には小さな白い立方体が川沿いに等間隔でならんでいる。
「町だね。」歩きながらクーさんが言った。
ちょうど丘の頂上あたりだろうか、僕らは眼下の何ともかわいらしい小さな集落をしばらく眺めていた。
僕にはいったいここがどういう場所なのか全く見当もつかなかった。
ちゅら星かどうかさえ怪しい。
「ねぇユニヴァ、この場所に見覚えあるの?」僕は聞いてみた。
ユニヴァは黙っていた。
するとクーさんが驚いたように僕を見て言った。
「ピーちゃん!ここがLume星なんじゃなかったの?」
「僕が行ったLume星はこんなところじゃ無かったよ。」
「だって、ユニヴァがLume星へのポータルを開くってさっき・・・。」
クーさんがそこまで言いかけたところでユニヴァが言った。
「だって、あたし何もしてないのに?」
「あの窓、ユニヴァがちょちょいとなんかしたんじゃないの?」
あの窓については、僕もユニヴァの仕業だと決め込んでいた。
「じゃあの窓って何?ここ何処よ!」
ユニヴァは一瞬ゾッとした顔をして、来た道を一気に駆け戻り始めたので、僕らもそれに続いた。
ものすごい勢いで、何分もかからないでユニヴァの部屋まで戻ってきた。
僕らは三人とも床に寝ころんでぜーぜー言っていた。
ユニヴァの部屋の窓は、それでも相変わらずあの丘に続く景色が開放されている。
「もうその辺を散歩してきちゃったようですね。」
ソファアにゆったりと座っているヒツジみたいなのが涼やかに言った。
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【2008/05/07 12:42】 | ちゅら星物語 | トラックバック(0) | コメント(0) |
ちゅら星(36)
「*◎▲∴と申します。三ツ星旅行をご希望だそうで。」
僕らは唖然として口もきけなかった。
名前はとても発音できそうもないことだけは解った。
「ミンタカ星をご案内いたします。」ヒツジはニコニコしている。
僕らは口を開けたままだ。
「ちょっと悪いけど、ヒツジちゃんでしたっけ。あたしたちさっきちょっとだけ三つ星の話をしただけなのよ。」
「*◎▲∴と申します。」と言ってヒツジはニコニコしている。
「ヒツジちゃんでいいわね!」とユニヴァが念を押した。
「ホシマルサンカクユエニと呼んでくださっても構いませんが・・・。」とヒツジが言うので、ユニヴァは「んじゃ、ホシマルちゃんね!」と付け加えた。
それからホシマルちゃんはソファアからちょっと乗り出して、あごの下で両手を組んだ姿勢をとった。
「丘の上まで行っていらしたのですか?」
走って帰って来た僕らもだいぶ息が落ち着いたので、ソファアに移動した。
クーさんはテーブルの端の水差しを自分の分の水を一杯注いでから僕に回してよこした。
「ってことは、その窓の向こうが三ツ星の何とかいう星ってわけ?」
「はい、ミンタカ星です。」
「その名前、考古学のテキストで聞いたような気がする。」僕はそう思い出して言った。
「ええ、実際あまり名前を付けられたことはありません。何にでも名前を付けたがる種族が付けた名前がミンタカと言うだけです。」
「発音できない名前より無い方がましよね。」ユニヴァが皮肉っぽく言った。
「じゃあホシマルちゃんは、ミンタカ星の旅行会社のツアーガイドってことだね?」とクーさんが聞くと、ホシマルちゃんは待ってましたとばかりにソファアから立ちあがった。
そして僕らはまた窓の外へと踏み出して行った。
「さっき覗かれたと思いますので、丘の向こうは後にしてこちらの方へ行ってみましょう。」
そう言ってホシマルちゃんは、左側に続く平坦な小道を進んで行った。
「あれ、渦巻貝とビスケットの袋持った?」と途中でユニヴァが騒ぎ出したけれど、僕はちゃんと持ってきていた。
ホシマルちゃんはヒツジとはいっても、二足歩行のヒツジなのだ。
少し行くと林の中に入った。
鳥の鳴き声と午後の傾いた木漏れ日の中を、変なヒツジの後について進んで行った。
「気持のいいところね。」ユニヴァが機嫌よく言った。
「ところでこれはどんなツアーなんです?」一番後ろのクーさんから声がした。
「ポータルを開くことになっているはずですが・・・。」少し振り返ったホシマルちゃんが答えた。
「やっ、やっぱり・・・。」小さくユニヴァがつぶやいたのが聞こえた。
林を抜けると雄大な草原が広がった。
僕らは大草原のど真ん中を悠々と進んでいく。
途中のあちこちで家族連れのヒツジが草を食んでいるのを見かけた。
すぐ近くにいた顔の黒いタイプのヒツジの親子にホシマルちゃんが声をかけると、お母さんヒツジは二本足で立ちあがって「今年の牧草はとってもいいできだわ。」とほほ笑んだ。
子ヒツジは不思議そうな四角い瞳で僕らをじっと見つめた。
「ほら、あそこにレンガの門が見えますでしょう。あそこまで行きますからね。」少しへたばってきた僕らを感じてか、ホシマルちゃんが声をかけた。
大草原は沈みかけた夕陽で黄金色に染められて、草を食む羊たちの影が幻想的に長く延びていた。
レンガの門の先は石畳の続く集落になっているようだ。
石畳を進むホシマルちゃんの蹄の足音だけがコッツコツコッツコツと静かに響いた。
道の両脇にはノスタルジーな不ぞろいのレンガを積み上げた家が並び、どの家も手入れの行き届いた草花を飾りつけてあったり、壁に蔦を這わせたりしてある。
中でも一番目を奪われたのは、ピンクのバラを壁中にびっしり這わせてある家だ。
そしてホシマルちゃんはその家の前で止まり、ゴソゴソとお腹の毛の辺りから取り出した鍵でドアを開けた。
「さぁ、どうぞ。」
みずみずしいバラの香りに満たされている。
入ってすぐの部屋は、中央に大きな丸いテーブルがあり、大きなつぼにピンクのバラがどっさり活けてある。それを取り囲むように半円型の深緑のソファアが左右に一つづつ置いてある。奥の壁の方には2階へ続く階段が見えている。
僕らは右側のリビングらしき部屋に通された。
バラの模様のゴブラン織りのソファアに腰かけて、ユニヴァは床に届かない足をブランブランさせていた。
外壁がピンクのバラでびっしり埋め尽くされているばかりか、部屋の中の出窓にもバラの鉢植えがいくつも並んでいるのだ。
外はすっかり暗くなり始めていた。
しばらくしてホシマルちゃんが夕食を用いしてくれた。
緑色のパンとピンク色のスープだった。
お腹がすいていたのか、すぐにユニヴァがスープに取りかかった。
「甘酸っぱくておいしい。」
「イチゴとジャガイモのポタージュです。」ホシマルちゃんはニコニコして僕とクーさんにも勧めた。
思いのほかいけるスープだ。
「ヨモギパン?」いち早くパンにも手をつけたのはユニヴァだ。
「牧草入りの胚芽パンです。」
「そう言えばさっきのヒツジさんが今年の牧草はおいしいって言っていたね。」
クーさんが言うとホシマルちゃんはニコニコして「お代わりもありますよ。」と言った。
その晩僕らは2階の部屋の干し草のベッドで眠りについた。

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【2008/05/26 12:44】 | ちゅら星物語 | トラックバック(0) | コメント(0) |
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れもんちゅらな宇宙で星散策。     エンドレスな「ちゅら星」の物語・・・  手作り黒猫や熊も紹介します。

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