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ちゅら星(17)
まもなく19:00だったので、その後から乗り込んでくる人はいなかった。
先ほど丸扉を開けてくれた赤ら顔の男が運転席に乗り込んだ。
しばらくして先ほどの耳の長い青白い顔の男が乗り込んでバスの扉を閉めた。
「ようこそ皆様。運転手はcafeOREのバーテンダーのウリが担当いたします。よって本日のcafeOREのドリンクメニューはビールのみとなっております。そして次元をまたぐ夜行バスツアーのご案内役はわたくしエラが担当させていただきます。では大変長らくお待たせしました。次元をまたぐ旅へしゅっぱ~つ。」
威勢がいいのは案内役のエラだけで、どうでもよさそうな拍手と、かすかな笑いが聞こえただけだった。
僕は拍手も笑いもせず不安げな面持ちで窓の外の暗い町並みを見ていた。
活気のない商店街を抜けると緑色の照明が見えた。
そしてバスは緑色の照明のトンネルに入った。
どんどん加速して、そして急に止まったかと思ったら宇宙空間を走行していた。
僕はあの月の地下街に比べたら、黒い宇宙空間は何てのびのびした明るい場所なのだろうと感じて落ち着いた気分になった。そしてこれから始まるツアーに対する不安が急になくなりワクワクした気持ちになってきた。
しばらくすると案内役がマイクを持ってこちらを向いた。
「皆様、前方に見えてまいりました薄暗い惑星がご覧いただけますでしょうか?」
見える見える。この場所ならちゅら星に行く途中でもはっきり見える場所なのに、こんな星は見たことも聞いたこともない。
異次元から忽然と現れたのだ。
「さすがに薄気味悪い惑星だな。」クーさんがぼそりと言った。
今日のクーさんはすっかり口数が少ない。
「大気、有害物質、磁場その他全て安全範囲内の地帯を発見しました。それではこれから皆様を異次元の惑星へご案内いたします。何が起こるかは誰にもわかりません。」
案内役は無気味に笑った。
そしてバスは吸い込まれるように惑星の大気圏に入って行った。

ま~お~ん・・・ま~お~ん・・・。
ジャングルの闇の中から、陰鬱な動物の声が聞こえている。
ここは夜なのだろうか、それとも夕暮れ時か、ひどい曇り空の昼間なのだろうか。
バスは灰緑色の草木に覆われたジャングルのような地上を走行していた。
ジャングルの道はかなりバスを揺らしたので、途中からは地上から30センチくらいのところを空中移動する運転に切り替えたようだった。
そして道なきジャングルの奥地へとバサバサと木々を押し分けるようにしてバスは進んで行った。
植物は灰緑色か黒で、葉は非常に分厚いものが多い。
突然バスが停まった。そしてライトを落とした。
辺りはシンとしていて風すらない。
運転手が前方を見つめたまま声をひそめて言った。
「何かいるぞ。」
僕は薄暗いジャングルに目を凝らした。
小さな赤い光がチラッと見えた。そしてまた。
「うわっ。」クーさんがうめいた。
突然目の前に光る赤い実の群生地が広がった。
赤い光はチカチカと点滅している。
すると赤い実が浮き上がってこちらに向かってきた。
思わず僕らは身を引いた。
バスのすぐ近くの木にとまったそれは、猿ほどの大きさの翼のあるリスのような生き物だ。
赤い目でこちらを伺っている。
気がつくとクーさんは身を引きすぎて座席から落ちていたようで、のそのそと這い上がってきたところだった。
「クーさん見て、かわいい動物だったよ。」
次々と赤い実が浮き上がってきて、バスの周りの木々は翼のあるリスでいっぱいになった。
しばらくこの動物を眺めてからバスはライトを点けずにゆっくりと動き出した。
辺りは動物の声もなく、車が木々をすり抜ける音がカサカサと聞こえるだけだ。
「何か聞こえる。」前の方の座席の誰かが言った。
耳を澄ますと何か引きずるような音がズズッズズッと聞こえてきた。
バスはゆっくりと前進した。
音は右の草むらからバスを追いかけて近づいてきている。
そしてズズッズズッと僕の足元のすぐ外で聞こえるほど接近して来たようだ。
クーさんは足を床から引き上げて座席の上で抱えていた。
「ううっなんだこりゃ。」運転手が低い声でうなった。
そしてバスは動きを止めた。
こちらを振り返った案内役が長い耳をピンと立てて目を見開いたままになった。
恐る恐る僕が後ろを振り返ると薄黄緑色の巨大なアメーバ―がバスのお尻にべっとりしがみついている。
それは呼吸をするようにバスを吸引しようとしているかのようだ。
固まっていた案内役が運転手に叫んだ。
「全速力だ、緊急脱出モードだ。」
少しずつアメーバ―が離れて行く。
「早くしろ、もっとだもっと。」
アメーバ―の触手がちぎれて、その反動でバスは上空高くに放り出された。
後の窓ガラスには薄黄緑色のアメーバ―の切れ端がこびりついている。
案内役はフゥと息をついて額の汗をぬぐった。
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【2007/03/05 12:43】 | ちゅら星物語 | トラックバック(0) | コメント(0) |
ちゅら星(18)
「皆様ご安心ください。恐怖のジャングルから抜けだ・・・」
案内役は言葉途中のままバスの後部に乗り出してきて、僕らの脇まで来てから「大変だぞ。」
と叫んだ。
そして運転席のところまで後ずさりながら戻って行くと。
「アメーバ―の切れ端が増殖している・・・。」とつぶやいた。
振り返ると薄黄緑色のベトベトが発光しながら広がり始めている。
運転手が大きくハンドルを切りながら言った。
「このままじゃ戻れないぞ、俺たちの月が異次元の生物に汚染されちまうぜ。」
そしてバスは何かを探すように惑星の空をしばらく飛びまわった。
上空から見ると、僕らのいたジャングルはほんのわずかな一地帯でほとんどが滑らかな大岩のころがる植物も何もない大地なのだ。
時々振り返るとアメーバ―は益々広範囲に広がり、色は黄色みを帯びてきていた。
「よし、あそこだ。」
運転手はそう言うとバスは急降下し始めた。
眼下には湖のようなものが見えるが、なにしろ薄暗いこの惑星でははっきりしない。
湖の6メーターくらい上でバスは浮いたままの状態になった。
「どうだいエラ?」
「塩だ、塩湖だよ。」と案内役のエラが何かのパネルを見ながら答えた。
「よーし、じゃ皆ちょっと荒っぽいことをするからシートベルトを締めてくれ。」
皆慌ててシートベルトを締めて、エラは全員のシートベルトを確認してから自分も席についてシートベルトを締めた。
そしてバスは頭をグゥーンと持ち上げて塩湖の水面に垂直になった。
そしてゆっくりバックしてバスのお尻を塩湖に浸けた。
僕らは後ろから2番目の座席なので水こそ入ってこなかったが、すっかり湖の中に浸かってしまった。
数秒ですぐにバスは上昇して体制を戻した。
僕が後ろを振り返ると、薄黄色くなったアメーバ―はだいぶ小さくなっていた。
「もう一度か?」と運転手のウリがエラの顔を見た。
「しかし塩だけじゃ心配だなあ。」エラは2回目の塩漬け作戦に乗り気ではないようだ。
しばらくバスは空中をうろついた後、遠くに見える火山らしきところを目指した。
火あぶりにでもしようというのか。
ブクブクと煮えたぎる火口に差し掛かると、それだけでもかなりの熱を感じた。
バスは火口の上空を旋回していた。
思いのほか熱くて近づけないのだ。
振り返るとアメーバーかなり小さくなって動きも止まっているように見える。
「そろそろ時間が迫ってるぞ。」運転手が言った。
「しかしこいつをつけたままじゃ帰れないぞ。」
それから案内役はこちらに向き直って「皆様、残念ながら今回のツアーは失敗に終わってしまいました。私達は私達の次元区域を守るため、この星とともに異次元の世界へ留まらなくてはなりません。」
乗客全員がざわめいた。
「ご安心ください。この次元にももっと住みやすい美しい惑星が存在するはずです。次元の扉が閉じ次第、私たちの生きる場所へご案内いたします。」
僕は少しも安心などできなかった。
もちろんクーさんも、他の乗客もだ。
それでも運転手のウリは少しでも火口近くに近づいてアメーバーを退治しようと勤めていた。
アメーバーは小さくなってはまた増えることを繰り返していた。
「くそっ、どうすりゃ消えてくれるんだ。」
そう言ってウリが火口から抜け出そうとした時、煮え立つ赤い溶岩の中から燃える龍が飛び出してきた。
「ウギャー!全速力だー!」なぜかクーさんが叫んでいた。
クーさんに言われるまでもなくバスは全速力で上空に飛び上がった。
しかし燃える龍は火の粉を飛び散らせてゴウゴウと音を立てながらバスにまとわりつき、僕らのすぐ外にしがみついたようだ。
「バスの壁に触れるとやけどをするぞー。」エラが叫んだ。バスの中は灼熱地獄だ。
僕らの様子を確認しようと前の席のエラが身体をよじって振り向いた。
「ややっ、ややっ。」エラは身体をこちらによじったままバスにしがみついている龍を凝視している。
それを見て通路側のクーさんも熱さに顔をゆがめながら振り返ってみた。
「くっ食ってる、あいつアメーバーを食ってるぞ!」クーさんが怪しく笑いながら僕に振り返った。
それから僕もシートベルトを外して、後ろを振り返ってみた。
炎をたぎらせた龍は燃える指でアメーバーを鷲掴みにしては、口に運んで行った。
「あと一つだ。」最後のアメーバに手をやった龍を見て誰かが言った。
そして最後の一つを食べてしまうと、燃える大きな目でバスの中をギロリと覗き込んだ。
クーさんが「ひえっ。」と情けなく叫んだ。
そして龍はバスから手を離すと瞬く間に火口に降りていって見えなくなった。

バスは宇宙空間に戻っても真夏の炎天下のような暑さが続いていた。
さっきまでいた薄暗い惑星を僕らは遠くから黙って見つめていた。
よく見ると、小さく白く光っているのがあの火口だということがわかる。
しばらくしてコトコトとマイクが鳴って、案内役が話し始めた。
「このたびは皆様お疲れ様でした。一時はどうなることかと思われましたが、なんとか無事帰還することができたことを、皆様の勇気あるエネルギーとあの炎の龍に感謝したいと思います。さて、このあとは数分後に次元の扉が閉じるのをご覧になっていただいた後、cafeOREへ向かいますので、しばしの異次元ツアーをお楽しみください。」
そして僕らの目の前の薄暗い惑星は何かに吸い込まれるように渦を巻きながら小さく収縮していき、何もないいつもの宇宙空間が残った。

cafeOREには僕らのために席が用意してあった。
僕ら乗客と運転手と案内役はビールで乾杯して帰還を祝った。
それから運転手のウリは「何か記念のカクテルをつくってきますぜ。」と言ってカウンターに入って行った。
「そちらのビールにあきた皆様もウリのドリンクメニュー解禁ですよー。」と案内役が店中に聞こえるように叫んだ。
僕らが2杯目のビールを飲み終わる頃ウリが真っ赤なロングカクテルをツアー客の人数分運んできた。
大拍手で迎えられたそのカクテルは、真っ赤な液体の中から螺旋を描いて炎の龍のホログラムが踊り出てきているものだ。
僕らは真っ赤なカクテルで炎の龍に乾杯した。

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【2007/03/16 10:45】 | ちゅら星物語 | トラックバック(0) | コメント(0) |
ちゅら星(19)
13.ピクニック
しばらくぶりに会ったクーさんは少し痩せたように見えた。
「それにしてもすごいツアーだったね。」
「最悪だった。あんなのだとは思わなかったよ。僕はお化け屋敷とジェットコースターはだいっ嫌いなんだから。」
僕はあの時のやけに臆病だったクーさんを思い出して大笑いしてしまった。
「僕はめったにできない体験で面白かったと思っているよ。」
「だったら気晴らしは必要ないかもしれないね。」
それからクーさんはミルク味のアイスキャンディーを差し出した。
「気晴らしって?」
「ちゅら星旅行計画したんだけど、どぉ?」

ちゅら星は少し秋風が吹き始めた頃なので海水浴には遅かった。
そして車が着いたのは大草原の真ん中だった。
真っ青な空には真っ白い雲が爽やかに流れて行く。
遠くには羊のような動物がまばらに散らばっているのが見える。
小川は青空を映して輝きながら草原の丘を取り巻くように流れている。
僕らは小川まで下りて行ってみた。
透明な水の中の草花がゆらゆらと流れに揺れて小さな魚が時々通り過ぎてゆく。
魚をつかもうと手を入れてみたけれど動きがすばやい。
気がつくと僕らのすぐ隣にレースのパラソルをさした女の人が立っていた。
僕らはその場に立ち上がった。
「きれいな水ね。」と女の人は微笑んだ。
それから女の人は小川から手に持っていたガラスのポットに水を汲んだ。
「この水でお茶を入れるから、あなた達もいらっしゃいな。」
女の人はゆるい丘を登り始めたので、僕は急いで歩み寄って、水のポットを持って行くと言った。
丘を上がりきると草原のあちこちにある大木の木陰のベンチにはピクニックをしているグループがいくつか見えた。
その一つのベンチに僕らは案内された。
女の人は花柄のポータブルレンジにポットを載せるようにと言った。
「お湯が沸く頃にはサンドウィッチも到着するのよ。」と言って女の人は微笑んだ。
しばらくすると小さいバスケットを持った女の子と大きいバスケットを持った男の子と草の束を持ったオレンジ色のクマの3人組がやって来た。
女の子はチラッと僕らを見て、「お客さん二人くらいなら何とかなるわ。」と言って、ピクニックのベンチに加わった。
オレンジのクマが女の人に草の束を差し出すと、女の人は草の束に顔を寄せて満足げにクマの頬をなでてから、その草をポットのお湯に投げ入れた。
男の子は持ってきたバスケットからお皿を出して、チーズをカットしてはお皿に出して行った。それから小さいお皿を銘々に配ると、女の子が小さいバスケットからサンドウィッチを出して配っていった。
オレンジのクマは男の子からミニトマトが入ったバケツを渡されると小川にちょこちょこと走って行った。
男の子が銘々にティーカップを配り終わると、女の人がポットのお茶を配っていった。
お茶はミントの爽やかな香りがした。
お茶が配り終わった頃、オレンジのクマが小川で洗って来たミニトマトのバケツをテーブルの中央に置いた。
女の人がにっこり微笑んでサンドウィッチに手をつけたので、僕らも続いてサンドウィッチに齧りついた。
耳つきのパンにハムとアボカドがサンドされたものと卵サンドだ。
女の子がお話聞かせてと女の人に言った。
それから女の人はナプキンで口をぬぐってお茶を一口飲むと話し始めた。
「それは私があなたくらいの女の子だった頃のことよ。私はその日カモミールを集めていたの、すると目先の切り株に大きな昆虫がいるのでとてもビックリして飛びのいたのだけど、気を取り直して近寄ってみるとね・・・。」
「羽の生えた妖精が手招きしてたんだぜ。」と男の子が言った。
「あんたは黙っててよ。」と女の子が咎めた。
それから女の人は妖精に森を案内されて美しい湖に行った出来事を語って聞かせた。
女の人は一息入れて、少し冷めたお茶を飲んだ。
お茶のお代わりのために僕は空いたポットを持って小川に水を汲みに行き、オレンジのクマはせっせとハーブを集めて来た。
お茶が出来上がるまでの間にほんの簡単な自己紹介をした。
女の子と男の子は双子で、クマは男の子の幼馴染だそうだ。
女の人は若くてきれいなのだが、双子のおばあ様だということだ。
自己紹介が済んですっかりリラックスして、僕らは2杯目のお茶を楽しんだ。
「このドームなら、そんなに美しい湖があってもおかしくない気がするなぁ。僕らも妖精に案内されたいものだな。」とクーさんが言った。
「あらクーさん、その湖は今じゃ誰でも行ける観光スポットになっているのよ。」
女の人がそう言うと、双子とクマが口をそろえて「知らないの~?」合唱した。
僕らは湖の場所を教えてもらおうと身を乗り出した。
すると女の子が「ほらぁ。」と言って空を指差した。
見上げると大きなシャボン玉がいくつも流れていく。
「あれに乗っていくのよ。その小川の端に乗り場があるでしょ。」
確かに川の上流からドンブラコッコと川を下ってきては大きなシャボン玉が次々飛び立っていく場所が見える。
「湖に続く森の道はね、妖精さん達の住処だから通らないようにしなくちゃならないでしょ。それで私が素敵な乗り物を考えたの。」そう言って女の人が微笑むと、「おばあさんはとっても優秀な魔法使いなのよ。」と女の子が自慢げに言った。
いつのまにか西日のあたる時間になっていた。

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【2007/03/28 12:32】 | ちゅら星物語 | トラックバック(0) | コメント(0) |
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WhiteUniva∞ホワイトユニヴァ


れもんちゅらな宇宙で星散策。     エンドレスな「ちゅら星」の物語・・・  手作り黒猫や熊も紹介します。

プロフィール

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Author:れもんちゅら
こにちわ~!
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