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あけましておめでとうございます。
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【2007/01/01 19:20】 | 未分類 | トラックバック(0) | コメント(0) |
ちゅら星 (7)
鳥のさえずりが賑やかになった頃、森の向こうに明るい通りが見えてきた。
そこはレンガの道なりにずらりと店が並んだ賑やかな通りだ。
オープンカフェは午後のお茶でにぎわっている。
その隣はイタリアンレストラン、そのまた隣はフレンチレストラン、ワビサビなお土産の包みが似合うような通りではないことは確かだ。
それからここはアンティークドールの店、青いキラキラした目のビスクドールがうつろに空を眺めている。
かわいくない不思議の国のアリスが横目で何処かをにらんでいる。
ウィンドウの隅の親指ほどの古ぼけたクマには日焼けして消えそうな値札が付いていて、値段を付けまちがいたような驚きの価格が記されている。
いつまでも人形屋のウィンドウにしがみついている僕の肩をクーさんがたたいた。
「ほらそこだよ。」
指差された店の看板にはこげ茶に濃いピンク色の文字で「LovelyCacao」と書かれていた。
僕らはチョコレートの試食のためにはるばる来たのだ。
古いレンガの壁にロゴがかかれた曇りガラスの入った木の重厚な扉、店の周をチョコレート色のミニバラが取り囲んでいる。
LovelyCacaoの扉を引くと、勢いよくガランガランとドアベルが鳴った。
店内は洞窟を模したつくりでひんやりしている、照明はだいぶ落としていて薄暗い。
奥に長い部屋の中央に細長くかまぼこ型のショウウィンドウが光を放って続いている。
チョコレートが美しくディスプレイされ、知らずに見れば宝石店のショウウィンドウと思うに違いない。
ゆらりと洞窟風な壁が動いたように感じ僕はビクリとした。
よく見ると黒っぽいかたまりが動きさらにビクリとする。
「あらやだ、おどろかせちゃったかしらん?」
「うわぁー!」僕は叫んだ。
エプロンドレスのグリズリーがいる。
「クーちゃん、この坊ちゃんはクマを見るのは初めてなの?」
僕はクーさんが答える前に慌てて答えた。
「てっきり誰もいないと思っていたからビックリしただけです。」
グリズリーとクーさんはクスクス笑っていた。
「あら珍しい包みを持っているじゃない?白フクロウに油を売っていたのね。クルミ餅は何年ぶりかしら、すぐお茶を入れましょう。」
僕らは奥の調理場を抜けて、外階段を上がり2階のベランダのガーデンテーブルでクルミ餅を広げて緑茶を飲んだ。
しばらくするとベランダの陽だまりで眠っていた黒猫が目を覚ましてこちらに寄ってきた。
黒猫は椅子に飛び乗ると紫色の煙に包まれ、そしてユニヴァが現れた。
ユニヴァは僕に口だけで微笑んでクルミ餅に手を伸ばした。
黒いビロードのドレスの襟元には赤い珊瑚のネックレスが飾られている。
それから次々と来客が増えていった。
ユニヴァの姿が見えなくなったと思ったら、ソファアの隅で黒猫が丸くなって眠っていた。
グリズリーは夜の試食会の用意のために下の調理場へ入っている。
クーさんが銀色のいかにも宇宙人なスーツを着た友達を紹介してくれた。
クーさんはまた別の友達に呼び止められていたので、僕は宇宙人と二人で世間話をした。
「どうして宇宙服を着ているの?」
「僕はキミ達と同様にこの星の住人じゃないからね。宇宙人な気分を演出さ!」
「僕はレモン星から車で来たよ。」
「僕のライム星はキミのとこのとは形が似ているけれど、それより10倍ぐらい遠い星だよ。だからマイカーでのんびり来たよ。」
「へぇマイカー!レモン星では外宇宙に出たことがない人もいっぱいいるって言うのに。」
「僕の星じゃ、二人に一人はマイカーさ。」
僕は思った、いつかはレモン星もそうなるのだろうなぁと。
振り向くと、ユニヴァのパーティの時に一緒に食事をしたピンクの女の子グマが来ていた。
ピンクの女の子グマは僕と宇宙人にアペリティフを運んできてくれた。
宇宙人はそこでようやくヘルメットを外したのだった。

西日が強くなり始めた頃、試食会の用意が整った。
僕らの案内された屋上は、4本の大きな木が屋根を作り、小さな滝や小川も流れる気持ちのいいガーデンテラスだ。
パンとワインと色とりどりのブドウがセットされたテーブルの上には夕方の木漏れ日がゆらゆら揺れている。
僕はチョコレートの試食会なので、簡単なお茶会程度のものを想像していたのだが、どう見ても豪華なディナーが始まりそうだ。
パンをつまみながらワインを飲んでみんなが雑談をしていると、二人の給仕を連れてやっとグリズリーが現れた。
運ばれてきた料理はチョコレートのスープ。
アーモンドの粉と金粉で飾られていて、甘くはなくほんのりチョコの香りがするけれど基本はジャガイモのスープだと思う。
それからチョコレートを練りこんだパスタはきのこのクリームソースで食べた。
もちろんミルクココアの味ではなく、とっても美味しい濃厚なパスタ料理なのだ。
グリズリーの席は用意されているのだが、料理の準備に忙しいので乾杯のシャンパンを一口飲んだままになっている。
「さあ、これが今日のメインよ!」
グリズリーがそう言って運んできた料理は、ミントの葉で飾られたチキンのパイ包みで、中にチョコレートムースとフォアグラみたいなものも包み込んである。ソースは木苺チョコレートのソースのようだ。
それと一緒に運ばれてきたのはチョコレートカレーのリゾット。
そこまで運び終わるとやっとグリズリーも席について食事に加わった。
ワインは料理のたびに違うものが用意されて、ディナーは誰にとっても満足のいくものとなったようだ。
満足のうちに食事が終わりに近づくと、またグリズリーは席を立った。
その間にテーブルは再び整えられて、今日はじめての白のワインが配られた。
濃厚な甘いデザートワインだ。
辺りはだいぶ暗くなってきていたが、屋根になっている木の枝にあしらわれた電飾と燭台のろうそくが十分な明るさを作り出している。
しばらくしてグリズリーが席に戻ってくると、二人の給仕が一人一人にデザートの皿を配っていった。
そして全員に配り終えた頃グリズリーが言った。
「さあ、これが今日のほんとうのほんとのメインディッシュよ!タイトルは『密林の静寂』です。」
それはたった一粒のチョコレートだった。
四角くて上にはピスタチオの刻みが飾られている、一度は何処かで見たことがあるようなチョコレートだ。
最初にグリズリーが口にして、みんなの方を見ておどけた顔をして見せた。
それから一口で口に入れる人や、齧ってなかみを見てみる人などさまざまな食べ方で、でも少しうやうやしく頂いた。
やわらかいスウィートチョコのコーティングの中はピスタチオのジャンドゥーヤ、そして一番奥の中心にとっても苦いブラックチョコが効いているのだ。
食後のコーヒーの時に、今日のチョコレート『密林の静寂』の注文書が配られた。
注文書には宇宙便の日時を指定できる欄もある。
でも僕はとりあえず10粒を今日のテイクアウトで注文した。

クーさんは、今日はこのままゴディ星へ帰らなければならないとの事なので、僕を車に乗せるとそこで別れた。
僕は運転手もいるかどうかわからない車に一人きりで心細かったので、レモン星に着くまでの間ずうっとシェードをあげて黒い宇宙を眺めていた。
【2007/01/03 18:11】 | ちゅら星物語 | トラックバック(0) | コメント(0) |
ちゅら星 (8)
5.ちゅら星の海
持ち帰った10個のチョコレートはレモン星の友達と家族に大好評だったので、結局僕の分は一つも残らなかった。
冷蔵庫にユニヴァからもらった食べかけの板チョコが残っていたのが幸いだった。

何が発祥なのかは知らないのだが、チョコレートをやったり取ったりする日がある。
ちゅら星でもそんなイベントが流行っているらしく、それに向けての試食会だったのだ。
そのイベントの日が正確に何時なのかは知らない、僕のレモン星ではまだあまり知られていないし、チョコレートはよく食べるけれどチョコレートブティックなんてものも存在しないのだ。
そんな頃、またユニヴァから宇宙便が届いた。小さな小包だ。
銀色の冷却パックに包まれていたのは『密林の静寂』だった。
きっとあの時の注文書で僕宛にも注文してくれていたのだと思ったら、とても嬉しい気持ちになった。
そして『密林の静寂』を一粒口に入れて試食会の時を懐かしく思った。
翌日、港の近くのマーケットに出かけ、カニの缶詰とウニの缶詰を箱に詰めて、チョコレートのお礼の手紙を添えてユニヴァへ宇宙便を送った。
それから僕はクーさんから、またちゅら星旅行への誘いのメールが来ないだろうかと待ち遠しく思った。
このところ僕の住んでいる辺りはだいぶ寒くなってきていて、海をうろつく気にもなれなかった。
あれからはクーさんもレモン星には来ていなかったようで、メールの返信がくることもなかった。その代わりだいぶたったある日一度だけ手紙が来た。
「来月までは僕らの住む地域は収穫時期で全員総出の収穫が続く予定だ。それが終わったらまたレモン星に行くからね。そしてまたちゅら星にも出かけよう。それではお元気で。」
だから僕は夏の間に集めた貝で貝細工をせっせと作る毎日なのだ。

季節が過ぎて南風が気持ちよくなってきた頃、ポストに宇宙便の小包が届いた。
「ユニヴァより」
今度は何を届けてくれたのだろう。
久しぶりの宇宙からの贈り物にワクワクして包みを開けた。
これは僕が缶詰をつめて送った箱だ。
少し不安を感じながらフタを取ると、缶詰の代わりにセロファンの袋に包まれたビン詰が入っていた。
ビンの首にはリボンで札が結び付けられていて、『ちゅら星の海 ユニヴァより』と書かれている。
ビンの中には、白い砂とたぶんちゅら星の海水、そして海水には不揃いな大きさの六粒の鮮やかなターコイズブルーの毬藻のようなものが浮いたり沈んだりしている。
箱の隅に手紙も入っていた。
「珍しい缶詰ありがとう。とっても美味しくてビックリです。誕生日にレモン星の海をくれたから、ちゅら星の海もプレゼントしちゃう。こちらは夏真っ盛り、海の季節だよ。」
僕はドームが浮かぶちゅら星の海を懐かしく想った。

レモン星もすっかり夏っぽくなったある日、軽く海水浴をして浜辺で寝転んで過ごした。午後になって帰ろうとしたら、ガードレールのところにアイスキャンディー屋が見えた。
久しぶりのクーさんだ。
そしてアイスキャンディーも望むところだった。
「今年新発売のマンゴ味はいかがでしょうか?」
「収穫終わったんだね。」
僕らはマンゴアイスキャンディーで乾杯して再会を喜んだ。
「来週の収穫祭が済めば落ち着くよ。よかったらゴディ星に来ないか?」
僕は当然ゴディ星へ行く約束をした。
【2007/01/08 12:08】 | ちゅら星物語 | トラックバック(0) | コメント(0) |
ちゅら星 (9)
ゴディ星は晩秋の季節だった。
どこもお祭り気分で、町や村も飾り付けられている。
音楽は聞こえないが、そこかしこにカラカラと音をたてる木の実がなっていて、賑やかな音楽を奏でているように聞こえるのだ。
刈り取りの終わった畑があちこちにあり、それが広場となって餅つきをしたり、大鍋で温かい食べ物を振舞ったりしている。
この広場に目立つのは、マジックを披露するマジシャンやタロットカードを広げている占い師がたくさんいることだ。
指の先が冷たくなってきたので、僕とクーさんも大鍋の料理を頂いた。
具沢山のスープで、カボチャ、サトイモ、サツマイモ、ネギ、ダイコン、ニンジン、アズキ、ダイズ、コンブ、アサリ、トリニク、それにお餅、数え切れないほどの具が入っているのだ。
すっかり温まったので他の広場に移動することにした。

音楽が聞こえてきた。
人々の歓声も聞こえる、歌っている人もいるようだ。
ここの広場は、ワインとチーズの収穫祭だ。
ワインのせいで陽気になった人々が、歌ったり踊ったりと賑やかなのだ。
僕らが広場に入るやいなや赤ワインのグラスと料理の皿を渡された。
皿には何種類かのチーズと何種類かの生ハムが山盛りのっているのだ。
僕らは干草の上に座って、誰かの歌を聴きながら味わった。
グラスが空になると、誰かがやって来て「こちらのワインはお試しになりまして?」と違う農園のワインを勧めてくれる。
こんどはワインですっかり身体が温まってきた。
向こうの別の広場から誰かが叫んでいる。
「リンゴのパイが焼けましたよー!」
何人かの女の子達が向こうの広場に駆けて行った。
僕らはまだリンゴのパイの気分じゃない。
クーさんと僕は新しいワインをもらって乾杯した。

すっかり酔っ払ったその日はクーさんの家の屋根裏部屋に泊まらせてもらった。
それでも二日酔いもなく翌日は爽快だった。ただ秋の朝はだいぶ肌寒かった。
下に降りていくと、クーさんは一人朝食をとっていた。
それから僕にもチーズトーストと温かいミルクを用意してくれた。
クーさんは眠そうな顔でチーズトーストを齧りながら「寒くなってきたな。」とボソッと言った。
それから僕らは黙ったまま朝食を済まし、その後クーさんはコーヒーを入れてくれた。
「海水浴にでも行こうか?」とクーさんが言った。
僕が黙ってコーヒーをすすっているとクーさんがまた言った。
「ちゅら星で海水浴・・・どう?」
「大賛成。」

車を降りると足元は真っ白な砂、それだけでもワクワクした。
そして打ち寄せる波の音が聞こえている。
ハワイアンやカリプソや夏っぽい音楽があちこちから聞こえていて混ざり合っている。
でもここは室内なのだ、周り中を曇りガラスのドームに覆われているのだ。
クーさんの声に振り向くと、クーさんは浮き輪を並べた店先にいて、もう海水パンツになっていた。
ブルーに黄色の水玉の海水パンツを指差して、「これなんかどう?」と言っている。
近くにいた女の子と女の子グマがクスクス笑って通り過ぎて行った。
「そんなのはくわけないじゃないか!」僕は怒った調子で言った。
クーさんはゲラゲラ笑っている。
僕は無地の紺色の海水パンツにした。
急いで着替えて僕らはザブザブと海に入って行った。
けれども広い海はガラス越しに見えるだけで、その先はドームの壁なのだから。
ところが壁のところまで行ってみると、いくつか出入り口があって人が行き来している。
クーさんについて出口を潜り抜けると、そこには大海が広がっていた。
ガラスを通さない海はなんて鮮やかなのだ。
すこし先に赤いブイが浮いていて、そのまた先に青いブイがあり、もっと向こうに黄色いブイがある。
「赤いブイまでは歩いていけるよ。その先は足が届かない。青いブイの先は極端に深くなっているので要注意だ。黄色いブイの先は遊泳禁止。」
海水は透明で白い砂や貝がよく見える、時々透明の魚がスーと通り過ぎていく、黄色いエビが飛び跳ねていくのも見える。
遠くのドームがキラキラと小さく光っている。
「あそこに見えるドームが常々連れて行こうと想っているピンクの女の子グマのドーム。
すぐそこに見えるのはユニヴァのドームだよ。」
ユニヴァのドームはすぐ近くなので、ここからでも少しだけ中が透けて見える。
詳細は見えないのだが所々黄色くなったり薄紫になったり次々と色が変化していて、まるでネオンサインのようなのだ。
ちゅら星の空は青い、かなり濃い紺色の空なのだがとても明るいのだ。
太陽はどこにあるのか見えない。明るすぎて見えないのかもしれない。
僕らは赤いブイと青いブイにはさまれたやや深い海を散策しては、ときどき赤いブイの内側まで戻ってきてブラブラと散歩をしたりした。
ドームの外の壁に沿ってずらりとパラソルが並んでいて、自由に休んでもいいし、簡単なメニューを注文することもできるようになっている。
僕らはピクルスの添えられたハンバーガーのプレートとビールを頼んだ。
日陰は涼しいけれど、今日一日でも真っ黒に日焼けしてしまいそうだ。
「この辺りは大気圏外にUVシールドが貼られているので、日焼けの心配はないよ。」
僕の心を見透かしたようにクーさんが言った。
夕方それぞれレモン星とゴディ星に帰ることになったのだが、クーさんは寒いところに帰るのが嫌そうで、近いうちにはレモン星に長期滞在で行くつもりだと言っていた。
【2007/01/13 14:59】 | ちゅら星物語 | トラックバック(0) | コメント(0) |
ちゅら星(10)
6.レモン星でのユニヴァ
おとといはゴディ星の秋、きのうはちゅら星で真夏を体験してきたけれど、レモン星はといえば、南風が気持ちいい初夏の季節だ。
きのうちゅら星の海で集めた貝殻を、机の上に広げてみているところなのだ。
そういえば、きのうの海ではターコイズブルーの毬藻は見当たらなかったなとユニヴァのガラス瓶を見た。
六つの毬藻は元気にしている。時々ふたを開けて空気を通してやるのだ。
僕の貝細工の店では、これから始まる真夏に向けて貝殻のアクセサリーがよく売れていた。
僕はちゅら星の貝殻を見つめて、新しいデザインを模索した。

それからまもなくのある日、クーさんからメールが届いた。
「しばらくはレモン星で過ごすから、またマンゴアイスキャンディーでも食べに来てね。」
寒さに負けて、もうレモン星にやって来てしまったらしい。
僕は時々アクリル絵の具を持って行き、クーさんのアイスキャンディーボックスのまだ絵を描いてない側面にも海の絵を描く作業をした。
しまいにはクーさんの自転車にも模様を描いたりした。
クーさんは喜んで、夏のゴディ星に帰った時は紫の珊瑚を必ず送ると約束した。
天気のいい日はたいていアイスキャンディーを売っていたので、僕もたいていキャンディーを買いに行き、そして長い時間を過ごして帰った。

僕らは海に出ることもあった。
念願の珊瑚の群生地にも行った。
赤い珊瑚をゴディ星で養殖できるのではないかと提案してみたが、海水の成分が違うので無理なのだそうだ。
そんなある日、クーさんに貝殻集めを手伝ってもらいながら、あまり行くことのない磯の近くの波打ち際を散策していた。
僕らはある程度貝殻を集めてしまうと、貝殻集めよりカニやウニを探して磯遊びに夢中になっていた。
クーさんはだいぶ大きなアワビを見つけた。
僕も負けずと岩場の穴に紫色のウミウシを見つけて手を突っ込んでいると、大波がやって来て頭からかぶってびしょ濡れになってしまったのだ。
それから日向に座って、持ってきたぬるくなった水を飲んで雑談をした。
かなりの量の小さな貝が採れたので、後で煮て食べることに決まった。
そしてビールの用意もしなければということになり、濡れた衣服が乾くのも待たずに腰を上げた。
西日に輝く海を眺めていたら、遠くをイルカが飛び跳ねるのが見えた。
イルカは何度も元気よく弧を描いてジャンプした。

僕らは海が見える公園のテーブルに、家から持ち寄った食べ物などを並べてミニパーティをはじめた。ここなら日が暮れても外灯があるので快適なのだ。
しかも、そこに停めてあるクーさんの自転車にはアイスキャンディーの代わりにビールがたっぷり詰め込まれているのだ。
小さな貝も茹でた鍋ごと持ってきた。
海はオレンジ色を強くしてぎらぎらと輝いていた。
すぐそこをさっきのイルカがジャンプして行くのを見ながら、僕らは乾杯した。

僕らがビールを飲むのも忘れて、小さい貝を楊枝でつついていると、何か気配がした。
空いていた椅子に腰掛けて、テーブルのソーセージを齧っている。
ピンクのギンガムチェックの涼しげなワンピースを着たユニヴァだ。
「貝美味しい?」と言って笑った。
僕は貝の鍋をユニヴァからも届くところに移した。
「さっきのジャンプ見ていてくれたでしょう?」
あのイルカがユニヴァだったとは。ユニヴァは何にでも変身可能なのだろうか。
僕はぽかんとして黙っていた。
クーさんは「いいジャンプだったよ。」と言って、アイスキャンディーボックスからビールを取ってユニヴァに差し出した。
ユニヴァはのどが渇いていたのか、美味そうにグビグビとビールを飲んだ。それからまた三人で鍋の貝をつつきだした。

翌日いつものようにクーさんのところに行ってみると、麦わら帽子をかぶったユニヴァが青リンゴのアイスキャンディーを齧っていた。
ユニヴァは僕の絵をほめてくれた。
「アイスキャンディーにも模様があったらもっと美味しいのに・・・。」なんて言った。
そしてクーさんは「考えてみるよ。」と答えた。
それから何日かの間は毎日のようにユニヴァに会うことができた。
イルカのジャンプもたびたび見かけた。

ユニヴァの姿も見えなくなってしばらくたった頃、久しぶりにポストに小包が届いた。
「ユニヴァより」
「こちらはだいぶ涼しくなってきました。この前、レモン星の海で見つけたのだけれど、渡すのを忘れたから同封します。この黄色い珊瑚でまたネックレスを作って欲しいの。」
僕はしばらくその珊瑚を眺めて、早速作業にとりかかった。
レモン星では黄色の珊瑚は雑草みたいなものなので、アクセサリーにすることはめったになかったのだ。
それからネックレスが出来上がると、カニの缶詰とウニの缶詰も一緒に詰めて、宇宙便で送った。
レモン星も朝晩は過ごしやすい季節になってきた。
【2007/01/16 13:14】 | ちゅら星物語 | トラックバック(0) | コメント(0) |
ちゅら星(11)
7.なまえ
ある時クーさんが訊いた。
「外宇宙に行く時は、何かなまえみたいなのがあると便利だと思わない?」
僕らレモン星人の間では、親しい人や必要に応じてはほとんどテレパシーで会話するので、なまえをなのったり呼んだりする必要がないのだ。たぶんゴディ星でも、ちゅら星でも、同じ星の住人同士はテレパシーのような方法でコミュニケーションをとっているはずだ。
せいぜいお気に入りのマークを自己表記に使うくらいだ。
ただし公共的にはプライバシーの問題などがあるのでメールを使うのが普通なのだ。
ニックネームを使うことは必要ないので考えたことなどない。
メールのアドレス番号をなまえの代わりに使うこともあるが、僕のようにゴロがあまりよくなかったり数字ばかりの場合は名前として使いたくなかったりするのだ。
例えば僕の貝細工ショップはなまえは無いけれど、海王星のマークに似たようなトレードマークで通っている。
しかし最近の僕はちゅら星やゴディ星への旅行が増えてきて、やはり発音できるなまえのない不便さを感じる。
「クーさんは、なぜクーさんと呼ばれるの?」
「銀河倶楽部に銀河共通名を請求したのさ。」
「銀河倶楽部?」
「この銀河の役所みたいなところだよ。」
僕はそんなものがこの宇宙に存在することを今の今まで知らなかった。
「レモン星人はまだあまり外宇宙に出ていないので、一般の人は知らないのが普通だよ。それになまえが無くても外宇宙旅行はできるしね。」
「それで、そこに請求すれば誰でもなまえがもらえるの?」
「もちろん。キミの波動紋リズムをこの銀河領域のどこでも理解できる音程のなまえに置き換えるだけだからね。」
「クーさんの波動紋はこの銀河の音程にすると『クー』なんだね。」
クーさんは黙ってうなずいた。

クーさんにも手伝ってもらってなまえの手続きを取ってからしばらくたったある日、銀河倶楽部の封筒が届いた。
「銀河共通名を通知します。右の青い銀河マークに指を置いてご確認ください。ご利用ありがとうございました。」
二つ折りにされた用紙の右側に青い変わった絵文字のようなものがある。これが銀河マークだ。
僕は用心深くそのマークに指を乗せてみた。
「ピー。」
女性の声で発音された。
もう一度乗せてみた。
「ピー。」
今度は男性の声だ。
指を乗せるたびに、女性の声と男性の声で交互に「ピー。」と発音する。
僕は耳を疑った。
僕のなまえが「ピー。」
これは何かの間違いか、この用紙のエラーなのではないか。
僕は愕然として、当分の間クーさんにメールすることさえできなかった。

「なまえは簡単な方がいいよ。なかには長すぎて覚えてもらえず困っている人も多いのだから。」とクーさんは言う。
僕は黙っていた。
またクーさんが言った。
「誰でも発音できるような好きなニックネームをつけてもいいんだぜ。」
僕にとってはマークなら思いつくけれど、なまえとなると思いつかないのだ。
そしてそれからはなまえの事は忘れて過ごした。
なまえなんてもういらないと思っていたからだ。

だいぶたったある日、またユニヴァから手紙が届いた。
「ピーちゃんへ」
「すごくかわいいおなまえ、よかったね。早くアナタの目の前でこのなまえを呼んでみたいので、ちゅら星に遊びにきてくれること待ち遠しく思っているからね。」
少しだけ「ピー」と言うなまえがすきになったような気がした。
次の日にはラブリーカカオのグリズリーからも季節のチョコレートと命名祝いの手紙が届いた。
しかもその手紙で、グリズリーの名前がメルだと言うことも判明した。
とにかく僕はこの銀河では「ピーちゃん」なのだ。
【2007/01/22 15:08】 | ちゅら星物語 | トラックバック(0) | コメント(0) |
ちゅら星(12)
8.温泉と半透明人間
レモン星もだいぶ寒くなった頃、僕とクーさんはちゅら星旅行に出かけた。
温泉のあるドームへ行くのだ。
車を降りたが一瞬は煙に覆われていて何も見えない。
煙がすっと引くと、目の前には大きな石のライオンが口をあけていて、そこから大量の温泉が噴出している。
大理石で装飾された立派な建物があり、僕らはその中へ入って行った。
中はホテルのロビーのようになっていて、クーさんは受付に進んで行った。
受付にはいくつかのパネルがあって、クーさんはパネルに表示されているレモン星のマークとゴディ星のマークに触れた。
パネルには「4番ゲート」と表示された。
4番ゲートに入ると、バスローブの棚があり、僕らも一つ取った。
更衣室で裸になり、その後シールドルームを通ると僕らは半透明人間になった。
僕が初めての体験に驚いて身体を見回しているうちに、クーさんは温泉の方へ行ってしまっていた。
あわてて温泉の方へ行ってみたのだが、湯煙でかすんでいる上に、そこらじゅう半透明人間ばかりで見分けがつきにくいのだ。
「ぴーちゃん。」と呼ばれて、やっと温泉のふちに立っているクーさんの面影の半透明人間を見つけた。
「なまえがあってよかったね。」とクーさんは言って、ゆっくりと温泉に入って行った。
温泉はややぬるめで、白濁した色をしている。
そのせいで半透明人間化している客達は、ほとんどお互いが気にならないのだ。
湯煙に透けるようにドーム越しの青空が見えて気持ちがいい。
時々湯煙が晴れると遠くに噴水のように温泉が噴出しているのが見える。
温泉は湖ぐらいにとても広いのか、またはそのように演出されている。
僕は半透明の手を水中で動かしてみた。
「クルミ餅の半透明人間もシールドなのかなぁ?」
「あれはただの恥ずかしがり屋だよ。ユニヴァと同じ人種さ。」
変身が得意な人種なのだろう。
「レモン星にもあの人種はけっこうたくさん住んでいるよ。もっぱらお化けとまちがわれているけどね。」
僕は最近レモン星で騒ぎになった怪奇事件も、きっとユニヴァの人種の仕業なのだと納得することができた。
僕はすっかりこの半透明な身体が気に入っていたのだが、温泉の出口のクリアルームを通ると元の身体に戻ってしまった。
僕らはバスローブをはおって、出口のゲートを出た。
ゲートを抜けると美味しそうな匂いが漂ってきた。
ここはレストランなのだろうか、ここもまた湯煙でかすんでいるのだ。
「ここのレストランはどこも温泉水で料理したものを出すんだよ。」
ガラスの自動扉を入ると霞は晴れて、バイキングレストランだということがわかった。
温泉卵と豚の角煮と温野菜のサラダを盛り付けて、僕らは温泉水で作った酒で乾杯をした。
食べ終わってしばらくすると、クーさんが「さぁ次に行ってみようか。」というので、僕はクーさんについて行った。
レストランの別の扉を出るとその先にまた入り口があって、さっきとは違う更衣室があった。
僕らはまた裸になり、シールドルームを抜けると、ぼこぼこと泡の立っているブルーの温泉に入った。
「まだ温泉が続いているとは思わなかったよ。」
「全部回るには三日はかかるよ。」
僕が唖然としているとクーさんが言った。「全部回る気はないけどね。」
まだ外は明るい。
温泉を出ると、またレストランになっていた。
シーフードレストランだ。
僕らは山盛りのムール貝のボイル皿を注文して、白ワインで乾杯した。
次の温泉はちょっと熱めで、束ねられたハーブが浮いている温泉だった。
そして次のレストランはとうもろこし料理。
僕らはアボカド巻のタコスのプレートでテキーラを一杯だけ飲んだ。
次の温泉は硫黄のにおいが強くて温泉のフチも黄色っぽくなっている。
においが強いので早々と退散して、次のレストランへ向かった。
おなかは空いてはいないのだが、レストランをはしごしているわりにおなかが一杯にはなっていないのが不思議だ。
硫黄の温泉の後のレストランはまさに燻製料理の店だ。
チーズの燻製で、ウィスキーとプーアール茶を飲んだ。
それからいくつかの温泉をまわり、夜になってしまった。
「泊まっていこうか?」とクーさんが言うので、そうすることにした。
ロビーで再度パネルを押して、指示された11番ゲートを入ると毛布の棚があったので一枚取って進んだ。
先のガラス扉を出ると、湯煙でかすんでいるので、間違って温泉に案内されてしまったのではないかと思った。
先に進むと煙は晴れた。一面に大きめの岩が引き詰められていて、思い思いの場所を陣取り毛布に包まっているのである。
岩にあがってみると、岩自体がほんのり温かい。
僕らも一つの岩を陣取り毛布に包まって、流れ星を数えながら眠りについた。

目を覚ますと眩しい朝日に照らされていた。
それからパウダールームに入り、備え付けの洗面用具で顔を洗い、歯を磨いた。
一つ隣の洗面台には明るいグリーンのクマが歯を磨いていた。
こちらを向いたので「おはよう。」と言ってみた。
「まだ寒いのに冬眠から覚めちゃったから、春までここで過ごすんだ。」
それからその日はクマと三人でお昼過ぎまで温泉を回り、温泉まんじゅうのお土産を持って帰途についたのだった。

【2007/01/25 11:28】 | ちゅら星物語 | トラックバック(0) | コメント(0) |
ちゅら星(13)
9.雨の日の訪問者
あれからクーさんはレモン星で少しの間過ごし、春の畑の手伝いがあると言うのでゴディ星へ帰って行った。

そしてレモン星もようやく半そでが着れる季節になってきた頃、久しぶりにユニヴァから手紙が届いた。
「ピーちゃんへ」
「いつまでたってもちゅら星に来てくれそうもないので、こちらからレモン星に遊びに行っちゃいます。」
僕は久しぶりにユニヴァに会えることを待ち遠しく思った。

ここのところ雨が降り続いている。
窓の外には濃い紫色のあじさいが咲き乱れている。
僕は桜貝に小さな穴を空ける作業をしていた。
何か動いたので窓の外をみる。あじさいが風に揺れたのだろうか。
気がつくと通りをあじさいが歩いているではないか。
不思議に思って、傘もささずに通りに出てみたが変わったものは何もない。
すると突然後から誰かが声をかけた。
「はい傘だよ。」
紫色の目をクリクリさせた小さなシロクマがあじさいを差し出していた。
僕は無意識に傘と言うところのあじさいを受け取っていた。
レモン星で進化したタイプのクマを見るのは初めてのことだ。
「どこからきたの?」
シロクマはただ目をクリクリさせて僕を見ているだけだ。
「迷子になっちゃったの?」
シロクマは僕の言葉に耳を貸す気もないようで、僕の庭のあじさいに手を伸ばしてもう一花採って、走って行ってしまった。
部屋に戻って桜貝の作業を続けていると、ドアのところに気配がしたので外に出てみた。
あじさいの傘二つ。
さっきのシロクマと、黒猫の着ぐるみのユニヴァだ。
それから久しぶりのユニヴァと小さなシロクマにお茶を入れた。
入り口の傘たてにはあじさいが二本さしてある。
テーブルにも僕が受け取ったあじさいの傘。 
僕はバラの模様のティーカップで紅茶を出した。
ユニヴァにはなぜだか紅茶がいいような気がした。
「ミルクをたっぷりね。」と小さなシロクマがユニヴァにお願いをした。
ユニヴァはシロクマの紅茶にミルクを入れてから、「ピーちゃんも?」と訊いた。
僕は紅茶にミルクは入れないので丁寧にお断りした。
それから少し前にもらったクッキーの缶を開けた。
シロクマが「まぁーるいの。」とか「ねじれてるの。」とか次々と言うたびに、ユニヴァは缶からクッキーを取ってシロクマに与えた。
「ユニヴァ、このシロクマくんは?」
ユニヴァは小さなメレンゲクッキーをコリコリと食べた。
「仲良しサークルの一人だよ。先週やっと会うことができたの。」
「仲良しサークル?」
「あれ?あたしの誕生日にクーちゃんが集めてくれたんじゃなかったの?」
僕は仲良しサークルが何のことかすぐに理解した。
「僕のサークルにはこんな幼いタイプはいなかったよ。」
「ワインを飲むのにお子様タイプで来るわけないじゃない。」
その辺りのシステムは僕には理解不能だった。いつかクーさんにでも聞いてみよう。
小さなシロクマが「茶色の四角いの。」と言った。

次の日はレモン星の海でユニヴァ達と少し早めの海水浴を企画していたが、天気予報は外れで朝から雨だった。
しかし僕らは海水浴を決行した。
シロクマはクマかきでざぶざぶ泳ぎ回っていた。
ユニヴァの姿がしばらく見えなくなったと思っていたら、金髪にブルーに鰭の人魚で現れて海の底の方に張り付いている。
そして僕の前の波間に飛び出してきて「サザエしか見つからなかったよ。」と言うユニヴァの胸にはサザエで作ったブラがついていた。
「すごいボインだね!」と僕は言った。
雨はすぐ止んで、昼近くになるとさっきまでがウソのように太陽が輝き始めた。
僕らは海から上がり、ユニヴァは水玉のワンピースの女の子になった。
そして木陰の乾いた砂浜に座って、僕が持ってきたおにぎりを食べた。
小さなシロクマは鮭のおにぎりが気に入ったようだ。

ユニヴァ達がちゅら星に戻ってしばらくしたある日、小包が届いた。
「ピーちゃんへ」
「この前の鮭のおにぎり美味しかったよ。きのうは友達を集めて鮭のおにぎりパーティを開いたぐらいさ。僕の友達の店のハチミツをプレゼントするよ。ちゅら星に遊びに来てくれたら焼きたてのハチミツパンをご馳走できるのにな。」
小さなシロクマからの贈り物だった。
【2007/01/30 17:21】 | ちゅら星物語 | トラックバック(0) | コメント(0) |
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