僕らはコココが運んで来たレモンビールでカンパイした。 レモン果汁で少し白っぽく濁ったビールに果肉の粒が見える。 檸檬の香りが爽やかな暑い日にピッタリのビールだ。 コココが人数分のスプーンをグラスに入れて持って来た。 「レモンビールって、そんなので良かったかしらね?」コココがスプーンのグラスを置いて言う。 「うん、いけるよ。」白い猿が泡のついた口で言う。 ユニヴァがボンボングラスのフタを開ける。 「まだ種は半分くらい残してあるわけだし・・・。」クーさんがコンポートをのぞき込む。 「煮ちゃったモノは食べちゃうしか・・・。」ユニヴァがグラスからスプーンをとる。 ユニヴァは蓮の実のコンポートを一粒スプーンですくい上げると、迷わずスポンと口に入れた。 「うん、上手に煮えてる!」ユニヴァがコココに言う。 「それじゃ僕も・・・。」おかっぱがスプーンを手に取る。 それから僕も一粒食べてみる。 「うん、甘さが丁度いいね。」 3粒を残して、全員一粒ずつコンポートの種を食べた。 コココはお代わりのビールを取りに行った。 「ミステリアスだったあの蓮も、ビールのおつまみになっちゃったね。」おかっぱが笑って言う。 「とは言えダミーだったジャングルがリアルになってここまで来れたってのも事実だよ。」クーさんが言う。 「そうね、ここは座標も判別できないミステリアスな場所・・・。」ユニヴァが空になったグラスを置く。 コココが新しいビールとピザを運んで来た。 「明るくなったらもう少し進んでみよう、誰かいるかも知れない。」ゴールリが言う。 乳白色の空はもうすっかり光を失っている。 それでも真っ暗闇とまではならず白みがかった暗さの夜になった。 ユニヴァは3粒残ったボンボングラスにフタをした。 ゴールリが揺り椅子で寝息を立て始めると、おかっぱと白い猿もハンモックに横たわった。 ユニヴァは風呂に入り、クーさんはギターを弾いていた。 僕と旧友はカウンターに移動して旧友のオリジナルのカクテルなんかを楽しんだ。 「明るくなってる。」コココがそう言って新緑の壁をオープンウィンドウに切替えた。 乳白色の柔らかな光が巨大真珠の中にも差し込んでくる。 「さて、冒険再開だ。」クーさんが伸びをして言う。 巨大真珠はプライベートビーチを離れて上空へ出た。 朝の海が白く輝いている。 「水平線の先に何かあるかしらね?」ユニヴァが言う。 「海岸線に進むって手もあるけどね。」クーさんが言う。 巨大真珠は海岸から離れると、遠巻きに陸地を見ながら進んで行く。 崖の合間には僕らがいたような入り江になった砂浜がいくつも見える。 他にはただジャングルの崖が続くばかりだ。 突然ユニヴァが巨大真珠を停止した。 「どうした?」 「見てよ!」ユニヴァが前方の崖を見つめて言う。 キラキラと光るモノが見えた。 崖のフチに透明のフェンスが張ってある。 手すりのついたおしゃれなテラスといった感じだ。 「人がいるって事だね。」おかっぱが言う。 巨大真珠はゆっくりとテラスに近づく。 人の姿は見えない。 テラスの奥には透明の住居型ドームがある。 テラスは崖から奥のジャングルの方まで円形にドームを囲んで続いているようだ。 広々としたテラスにはテーブルや椅子がさっきまで誰かいたかのように散らかっている。 「誰もいないみたいね。」ユニヴァがつまらなそうに言う。 「散歩に行ってるんじゃない?」クーさんが言う。 「うちの店もこんな感じにしようかな・・・。」旧友がジャングルの風が抜けるテラスを見て呟く。 「深海なのに?」僕が言う。 「その時は店名も変えるよ。」旧友が言う。 僕らはとりあえず崖のテラスを離れた。 一軒の素敵な住居があったものの、その後は原生林しか出て来ない海岸線を進む。 「もっとちゃんとした街がどこかにあるはずだよ。」ゴールリが言う。 「そうね!」 ユニヴァはそう言うと、巨大真珠の高度を上げて今度は水辺線めがけてスピードアップした。 かなりのスピードだが、未だ水辺線しか見えない。 「お宝発見?」白い猿が言う。 水平線の先に白く光るモノが見えた。 「何かしら?」ユニヴァが言う。 「竜巻?」おかっぱが言う。 島が見えてきた。 周りを真っ白な砂浜に囲まれていて、その奥に光るモノが見える。 キラキラと巨大な渦を巻いている。 それはその場で円柱を描いて渦巻いている。 まるでキラキラのイルミネーションをまとったビルディングのようだ。 真っ白な砂浜に近づく。 舗装された道路が海岸線沿いに島を取り巻いていて、その奥には白い建物が目立つ街が続いている。 僕らはキラキラの渦巻きの方に向かう。 上空から見ると街は放射線状に綺麗な同心円を描くように作られていて、その中央に広場があり、広場の中央には小さな池がった。 そしてその池の中央であのキラキラの塔が渦を巻いていた。 「飾り物なのかな?」僕が言う。 「そういう感じのエネルギーじゃない気がするけど・・・。」ユニヴァが言う。 街とは言っても人影一つ無い。 しばらくキラキラを眺めた後、僕らはこの場所を後にした。 「人気の無い遊園地ってつまんないもんだよね。」おかっぱが言う。 この島を離れると、今度は大小の岩が数珠つなぎに見えてきた。 更に先には白い岩の岩盤のような大きな島が見える。 巨大真珠はまた少し高度を下げて、岩の島を観察してみる。 「ああ、また何か光ってる。」白い猿が言う。 白い岩の崖の下の方に幾何学図形みたいなモノがキラキラと光って回転している。 そこには周りから岩を伝った滝が流れ込み大きな池が出来ていた。 「水たまりにキラキラか・・・。」白い猿が呟く。 そしてしばらく眺めた後、僕らは岩の島を後にする。 また何もない大洋が続いた。 「それよりここってどっかの惑星何でしょうね?」ユニヴァが言う。 巨大真珠は急激に上昇する。 その時巨大真珠が鈍い振動に揺れた。 「オッと!宇宙空間には出られないみたいね。」ユニヴァが僕らを見回して言う。 「ここ、いったい何処なんだ。」クーさんが情けない声で言う。 「誰かが作ったアトラクションだったりして・・・。」ユニヴァが含みを持った風に言う。 「誰かって?」僕が訊く。 「そりゃ誰かよ。」ユニヴァが口をとんがらせる。 当てもない青い海を巨大真珠はただ進む。 「ほら、またキラキラだ!」白い猿がユニヴァをあやすように言う。 実際にキラキラが遠くに見えてきた。 真っ白な砂浜が広がっているのが分かる。 何もない、取り残されたような真っ白な砂浜が青い海に浮かんでいる。 そして中央に鮮やかな緑のラグーンが見える。 そしてその中央でくるくると回転しいるボールのような多角形のキラキラ。 「水たまりにキラキラ・・・。」白い猿が呟いた。 ラグーンを後にして巨大真珠はまたあてもなく進む。 「またキラキラだ!」白い猿が叫ぶ。 猛スピードで前方からキラキラが迫ってきた。 小さめの巨大真珠だ。 「大丈夫か?」キラキラから声がした。 「・・・。」 「こっちだ!ついて来て。」 キラキラが動き出したので、とりあえずついて行ってみる。 キラキラはスピードを上げていく。 僕らの巨大真珠もそれに従う。 前方にまたジャングルの崖が見えてきた。 キラキラがスピードを緩めたかと思うと水中にダイブした。 僕らも水中に入る。 崖の下にゆっくりと回転している水流が見える。 キラキラはその水流に吸い込まれていった。 ユニヴァが僕を見る。 僕はクーさんを見る。 クーさんがユニヴァを見た。 ユニヴァは黙って水流に向かう。 一瞬引力を感じると、僕らは明るく広い室内にいた。 キラキラもそこに止まっている。 「見かけないトレッキングボールだな?」キラキラから声がする。 「ちょっとした冒険者よ!」ユニヴァが答える。 「冒険者?・・・どこから来たというのか?」戸惑った声が言う。 「蓮の池の方?・・・」ユニヴァも戸惑いの回答をする。 「・・・。」 長い沈黙が流れる。 「まさかオーナー・・・なのか?」戸惑いの声が言った。 僕ら全員がゴールリを見る。 「『深海』って以外に有名なの?」旧友が肩をすくめて言う。 「なぜ『深海』のオーナーを知ってるの?」僕がキラキラに訊く。 「『深海』とはなんだ?」 僕らは顔を見合わせる。 どうやら『深海』のオーナーを知っているわけではなかったようだ。 「じゃあさっきのオーナーって何よ?」ユニヴァが訊く。 「このハチスノマを作った張本人のことだよ。」 「ハチスノマ?」 ユニヴァの推測もバカにしたモノではないようだ。 ここは誰かが作ったアトラクションとでも言うのだろうか。 「いったいここは何なの?」ユニヴァが訊く。 「ここは・・・、ゆっくり話そう。」そう言ってキラキラは移動し始めた。 がらんとした部屋だが天井には派手な模様がある。 天井に点在する渦巻き模様はポータルかも知れない、模様と言うよりはリアルに渦を巻いている。 キラキラは上昇すると、一つの渦に吸い込まれていった。 僕らの巨大真珠も同じ渦に吸い込まれる。 透明の円卓を銀色の椅子が取り囲んでいるだけのシンプルな部屋に到着した。 キラキラの巨大真珠から出てきたのは、地味なグレーの翼を持った鳥人間が二人。 「キュートな乗り物の割には地味な人達ね。」ユニヴァが呟く。 僕らも巨大真珠を出る。 「ずいぶん大所帯だね。」中肉中背の冴えない感じの鳥人間が言う。 「中は広いの。」ユニヴァが言う。 「君達がここに来たと言うことは、蓮が種をつけたと言うことだろうか?」鳥人間が近くの席に着いた。 僕らも適当な席に座る。 「まあ、そういうことね。」ユニヴァが面倒そうに答える。 「君はハチスノマのオーナーではないのか・・・。」残念そうに鳥人間がユニヴァを見る。 「でも、この中にオーナーかポータルマスターがいるはずだ。」立っていたもう一人の鳥人間が言う。 ユニヴァが手を挙げる。 「アタシはポータルマスターと呼ばれてるけど。」 「LUME星を知っているか?」 旧友以外の全員が頷く。 「・・・なるほど。」鳥人間は何か納得したように腕を組む。 「ここはLUME星へのルートがある特別な場所だ。」鳥人間が言う。 「ホントにぃ?」僕が突拍子もない声で言う。 「というよりは・・・ここはすでにLUME星の内部でもある。」 「えーえっ!!」驚きの声が合唱した。 僕の脳裏に、あのマチの顔がよぎる。 僕らは思いの外スゴイ場所に来ていた。
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